YAMAHA SRX−6

日本を代表するスポーツシングル。

 

今現在生産されている本格的なシングルスポーツバイクは国内外共に壊滅状態で、数えるほどしかありません。

スポーツ指向のビッグシングルを打ち出したSRXは貴重な存在でしたが、それも生産中止になってしまいました。

「売れなかった」といえばそれまでですが、このカテゴリーの楽しさは他では味わえないものがあります。

リッターバイクが悪いとは言わないし、レトロなスタイルやフィーリングを楽しむシングルも悪くはありませんが、

スポーツシングルが選択できる状況ではなくなってしまったのは本当に残念です。

 

ヤマハ SRX−6(おそらく88年式)

スポーツ指向でありながらパフォーマンスを誇示するような威圧感はなく、変な懐古調もありません。

これに匹敵するデザインはSRV250ルネッサくらいしか思いつかない。

ほとんどエンジン幅しかないスリムな角型スチール製ダブルクレードルフレームに空冷OHCシングルを抱えます。

全体的に見ればオーソドックスな構成ですが、各部にこだわりが見え隠れします。

なかなかマニア心をくすぐる造り。

 

各部詳細

 

超スリム&コンパクトな車体は最大の特徴でもあり、最大の欠点でもあります。

大型バイクなのに全く迫力が無く、あまりに細い車体はマルチに比べると甚だ頼りないものですが、

シングルの能力を最大限に引き出す為の必然的な形状でもあります。

大きさはGB250クラブマンとほとんど変わりません。車重も150kgを切ってます。

それが600のトルクで走るんだから、考えただけでも痛快。

かっこよくて楽しければ、迫力とか押出とか他人の目などどうでも良いのだ。

 

シンプルながら個性的なデザインのメーター周り。アルミパネルで質感も高いです。

なかなか気に入っているんですが、スポーツシングルなら速度計と回転計の配置を逆にして欲しかった。

スピードメーターなんてオマケで良いのだ。

ハンドルはセパレートタイプでトップブリッジはアルミ製。

フロントフォーク・トップには前オーナーが付けたイニシャルアジャスターがあります。

 

元々はオフロード用だった物をSRXに合わせて手直ししたエンジン。

ヤマハにはより高性能な水冷5バルブシングルや極めてシンプルな空冷2バルブシングルもありますが、

ストリートユースのスポーツシングルなら空冷4バルブという選択も悪くはないです。

上手く収まっていて冷却フィンの造形もバイクらしさをかもし出します。

パワーは600で42馬力と控えめ。

しかし社外パーツでパワーを搾り出す事もシングルなら比較的安価で簡単。

オイル潤滑方式はドライサンプで、キックアームの奥にオイルタンクが見えます。

タコメーターは機械式で、ヘッド部分から出ている黒いケーブルにより動作します。

キックアームに連動するオートデコンプが備わり、ヘッドから後に伸びるワイヤーで動作します。

始動はキックのみ。始動は面倒ですが、セル始動だけになるくらいならキックだけのほうがマシ。

本来はバッテリーを搭載しますが、この車両にはバッテリーレスキットが使われているので

バッテリーを必要としません。

バッテリーに気を使わなくて済むのはありがたいですが、アイドリング状態ではやや容量不足。

 

画像は、前オーナーによりファンネル仕様になっている吸気系。

現在は全て標準状態に戻してあります。

この吸気系、ヤマハのシングルでは色々使われて有名ですが、

YDIS(ヤマハ・デュオ・インテーク・システム)と呼ばれる構造になっています。

強制開閉(画像左側VMタイプ)と負圧開閉(画像右側SUタイプ)という性格の異なる2つのキャブレターを持ち、

低速域ではVMのみ働いてダイレクト感を出し、高速域ではSUが加勢してスムーズさを出すアイデア機構。

さらに良く見るとセカンダリーキャブレターのSU側にはフロート室(ガソリンを一時的に溜めておく部分)が無く、

VM側のフロートを共有してます。

しかもSU側は低速域では動作しないのでメインジェットだけしか持たず、パイロットジェット等は装備していません。

どれも考えてみれば当然の事なんですが、なかなかよく考えられていて面白い機構です。

画像からキャブレターとメインフレームとの隙間がほとんど無いのが分かるでしょうか。

ガソリンタンクを外す際、燃料コックをどうしてもこの隙間から通す事が出来ず、タンクを外せません。

これじゃあどうやって整備するんだ?と思ったら、タンク裏にもう一つコックがありました。

つまりタンク裏の1次コックでタンクのガソリンを止めて、車体側面にある2次コックはフレームに残します。

コックを2つ付けるなんて手の込んだ事してあります。フレーム幅を極力抑えたかったのでしょうか。

フレームのダウンチューブが分割式になっているのも、エンジンとフレームを出来るだけ近付ける為のようです。

こだわりを感じる所です。

 

SRX−6には、ステアリングステムの下にオイルクーラーが設けられます。

SRX−4には有りませんでしたが、モデルチェンジ後は共通装備になりました。

空冷ビッグシングルは熱的に苦しいので、やはり必須の装備といえます。

しかしDR750Sに比べると、かなりサイズが小ぶりです。

排気量の違いもあるでしょうがオフ車の場合は走行速度が極端に遅い場合もあるので大型化されているのでしょうか。

エンジンに手を加えるなら社外品で大型化することも考慮した方が良さそうです。

オイルクーラーが装備されてもオイルに掛かる負担は大きそうです。

オイルはなるべく良い物を使い、早めに交換した方が良いようです。

排気ポートが2つあるのでエキパイは2本出し。ステンレス製です。

 

フロントブレーキはφ320の大径フローティングディスクに対向4ポットキャリパーの組み合わせ。

この画像では分かり辛いですが、ホイールは中空の3本スポーク。

当時はレーサーレプリカに匹敵するほどのこの装備、軽量なシングルには過剰とも思えます。

フロント周りだけでもヤマハのSRXに対する意気込みを感じます。

ただ、外見から想像する程ガッチリとしたフィールではなく、ハードに走ると少々頼りない感じがします。

パッドの変更で幾分改善出来るかもしれません。

SRXのポテンシャルをフルに発揮させるにはブレーキが肝です。

出来ればマスターシリンダーを高性能品に交換したいところ。

ちなみに初期型はダブルディスクに2ポットキャリパーで6本スポークの18インチキャストホイール。

2型のマイナーチェンジで大きく変更された個所の一つです。

ホイールベースは400よりも若干短くなっています。

外見は同じに見えても全く同じ車体の使い回しではないようです。

 

リヤブレーキは対向2ポットキャリパーをフローティングマウント。

穴あきのトルクロッドがマニア心をくすぐります。

しかしスイングアームは貧弱な鉄製。

サスペンションはリザーバータンクを持つものの、オーソドックスな2本サス。

走りを追求するなら不向きな組み合わせですが、SRXのデザインには2本サスも悪くありません。

ただしフロントもそうですが、サスペンションの性能はかなり悪いようです。

各部のクオリティが高いだけに残念ですが、貧弱でバンピーなサスを抑えて走るとアグレッシブ感倍増で

意外に面白いです。

画像ではサイレンサーが社外品(WM製)に交換されていますが、現状は純正に戻されています。

静か過ぎて迫力に欠けますが、住宅地でも気を使わなくても済むのと、パワーフィールも悪くないので

純正サイレンサーもまんざらでもないです。

なにしろ、あの凝縮感のあるデザインは秀逸です。

 

複雑な曲線で構成される車体デザイン。

テールランプはオフ車の使い回しのような気もしますが・・・

フレームやサスペンションは貧弱ですが、ブレーキやホイールは奢っていたり、

凝ってるんだか手を抜いてるんだか良く分かりません。

しかし85年当時の設計ならいたしかたないでしょうし、全体的に見ると上手くまとまっています。

というか、このデザインなら勘弁してやるって気になってしまいます。

今でもこれに勝るデザインのバイクが出てこないというのは、うれしいような悲しいような。

 

後期型ではセルモーター装備が大きな変更点ですが、フレームや足周りも一新されています。

デザイン的には前期型を踏襲したもので一見大差無いようにも見えますが、

フレームは大径化と補強、足周りはフォーク径アップとモノサス化により前期型で問題のあった個所を改善し、

大幅に強化されているため前期型とはまるで別物といった感じのようです。

セルフスターターの装備より、それら走行性能の向上の方が大きなメリットとなりそうです。

後期型ではセル始動のみになってしまったのでバッテリーには気を使うことになりますが、

その分乗る時はお手軽です。

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