キックを決めろ!

最近ではほとんど見かけないキック始動。

キック始動は難しい。キック始動には儀式が必要だ。などと言われていますが、

構造を理解してコツをつかめば決して難しいものではありません。

ここではSRXを例に挙げ、キック始動について書いてみます。

なるべく分かりやすく書こうとしたら説明文が長くなってしまいました。

理屈はどうでも良いという人は、「始動のコツ」以下を読んでください。

 

キック始動とは

最近は車もバイクもほとんどがセル始動です。ご存知の通りモーターでエンジンを回して始動する方法です。しかしセルでもキックでも、根本的にやっている事に変わりはありません。エンジンはガソリン(混合気)を爆発させる事で原動力を得ているのですが、エンジンが停止した状態から始動するには、一度爆発させて動力を得る必要があります。一度爆発すればその反動でエンジンは回り続ける事が出来ますが、最初の一発を爆発させる為に、外部からエンジンを回してやる(クランキング)必要があります。その最初に外部からクランキングするのをモーターで行うか、人力で行うかの違いだけです。しかし、セルとキックでは決定的に違う点が1つあります。それはセルの場合はバッテリーの電力が続く限りクランキングする事が出来ますが、キックの場合はキックアームを踏み下ろしている間しかクランキングする事が出来ないという点です。セルの場合は延々と回す事が出来るので、点火する機会も延々と巡ってきますが、キックの場合はキックを踏んでいる間しか点火するチャンスがありません。2stエンジンの場合は吸気工程と排気工程を同時に行う為、クランク軸1回転につき点火のタイミングも1回訪れるので、キックアームを1度踏み下ろす事でクランクが2回転するならばエンジンに点火するチャンスは2回ありますが、SRXのような4stエンジンの場合は吸気−圧縮−爆発−排気の工程をクランク軸2回転で行う為、キックアームを1回踏み下ろす事でクランクを2回回す事が出来ても、エンジンに点火するチャンスは1度きりしかありません。つまり、キックアームを1回蹴る間にエンジンを始動できる機会は1回しか無いのです。キック始動が難しいと言われる要因はそこに有り、ただ闇雲にキックするのではただ1度きりのチャンスをみすみす逃すことになり、偶然に任せていては、その1回のチャンスすら得られません。1回のキックにただ1度だけ訪れる始動のチャンスを逃さないようにする。それがコツと言われるものです。

 

デコンプ

キック始動には付き物である「デコンプ」。デコンプレッション(圧抜き)です。クランキングする際に一番力を要するのは圧縮工程の時です。シリンダー内に吸い込んだガソリン(混合気)を圧縮し、そこに火花を飛ばして爆発させるのですが、圧縮工程の時は吸気バルブも排気バルブも閉じた状態ですから、ピストンを押し上げるのに大きな力が必要になります。これが例えば同じ600ccでも4気筒エンジンになると1気筒当りの排気量は150ccになります。4気筒が同時に圧縮工程をする訳ではなく、1気筒づつタイミングがズレた状態で圧縮工程を行うので、大雑把に言えば600cc4気筒のクランキングに必要な力は150cc単気筒のクランキングに必要な力と同じという事になります。しかし単気筒の600ccとなると1度に600cc分を圧縮する事になります。4気筒エンジンで例えるなら2400ccのエンジンに相当する訳で、クランキングにはとても大きな力が必要になります。それではキックアームを踏み下ろす事が出来なくなってしまい、始動困難になってしまいます。そこで一番大きな力が要る圧縮工程の所で、シリンダー内の上昇する圧力を抜き、キックアームを踏む力を低減させてやるのがデコンプと呼ばれるもので、排気量が大きい単気筒エンジンには必須とも言える機能です。具体的には圧縮工程の時に通常は閉じている排気バルブを開き、そこから圧を逃がすというもので、ライダー自らがレバーで操作する手動式の物や、キックアームの動きと連動させて動作させるオートデコンプ、カムシャフト部分にデコンプ機能を内蔵させたオートデコンプ等がありますが、構造は違っても行っている事は皆同じです。SRXの場合はキックアームと連動して動作するオートデコンプが備わっています。

 

始動のコツ

前置きが長くなりましたが、上記からキック1回につき始動のチャンスは1度きり、キックに一番力を要するのは圧縮時、ということが理解出来るでしょうか。そうすると、キックを踏み下ろすタイミングは圧縮工程が終わった直後が望ましいです。一番力を要する圧縮は終わっているのでキックを踏み下ろすのに力はそれほど必要無いし、クランクの回転に一番勢いがつくキック終端付近で圧縮を行うので始動しやすくなります。これがもし他のタイミングでキックを始めると、キックアームが下りる途中で圧縮工程が始まってしまい、キックアームが途中で止まって踏み下ろせなくなってしまいます。じゃあどうやって圧縮工程直後を見極めるのかと言うと、デコンプが動作するのを確認するのです。デコンプは圧縮工程時に上昇する圧力を逃がす機能ですから、デコンプが動作した直後が圧縮工程直後ということになります。実際にどうやって判断するのかと言うと、SRXの場合は音で分かります。キックをゆっくり踏み下ろしていくと、途中で「カチッ」という音がするはずです。そのカチッという音がデコンプの動作音です。実際に誰かにキックを踏んでもらい、エンジンのシリンダーヘッド部分に繋がるデコンプワイヤーの動きを見てみると分かりやすいでしょう。デコンプ動作音を確認したらキックアームを踏むのを止め、一度キックアームを一番上まで戻し、そこからキックアームがストッパーに当るまで一気に踏み込みます。キックアームを踏む際は力の強さや勢いよりも、ストッパーに当るまでフルストロークさせる事の方が重要です。力は強い方が良いし、踏み込む速度も速い方が良いでしょうが、キックアームをフルストロークさせてクランクを最後まで回してやる事が大事です。

 

キック始動は難しい。キック始動は儀式が必要だ。などとまことしやかに言われていますが、理解してきちんと操作すれば決して困難なものではありません。SRXのキック始動については色々な所で書かれていますが、このページも1つの参考にして頂けたらと思います。キックにめげてしまってバイクを嫌いにならないで下さい。思うがままに始動できたら、「儀式」もきっと楽しくなるはずです。

 

参考

ヤマハのサイト 「SR CAFE」

http://www.yamaha-motor.jp/mc/lineup/sportsbike/sr400/cafe/index.html

サイト中の、「HOW TO KICKSTART」では、エンジン内部のイラストと共に手順が解説されているので、仕組みが理解しやすいと思います。SRは手動デコンプなのでライダー自らがデコンプ作業を行いますが、SRXの場合はその部分を勝手にやってくれます。手間が掛からない反面、デコンプが自動で行われてしまうので上死点がハッキリと分かりにくいという面も。要は、圧縮上死点直後を探し出せるかが一番の問題。

また、「エンジン メカニズム」のコンテンツでエンジンの仕組みが紹介されています。SRとSRXではエンジンが異なりますが、基本的な構造は同じなのでエンジン内部の動くイラストを見ると構造や理屈がイメージしやすと思います。

上記説明文を読んでもサッパリ?な人は、参考にしてみてください。

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