HONDA TLR200

イタリア製のトライアルマシンの代わりに

二十数年前のホンダを手に入れた。

なぜトライアルなのか?

「トライアルはバイクの練習になる。」

よく聞くセリフです。ある程度経験を積んだライダーなら、大抵誰でも言います。でも、そう言うほとんどのライダーは実際にトライアルマシンに乗っていません。特化したマシンは多目的に使う事が出来ず、つぶしが利かなくて地味な割には意外に高価なバイクをわざわざ所有しようとする人も多くないでしょう。でも、確かに練習にはなります。

トライアルバイクも他のカテゴリーのバイクも、操作方法は一緒。根本的には他のバイクとやっている事は同じです。ただ、より繊細で緻密で、時に大胆なコントロールをしなければなりません。トライアルをそれなりに走れるライダーなら、オフロードやロードバイクもそれなりに走れるでしょう。でも、ロードバイクやオフロードバイクでそれなりに走れるからといって、トライアルをそれなりに走れるかというとそうではありません。ロードバイクなどでは、大雑把な操作をしてもあまり問題が出ないので、シビアな操作を要求される機会がとても少ないからです。

「練習」と言うと堅苦しいですが、一見地味なトライアルマシンには大きな可能性が秘められています。自宅の庭先、細い路地裏、田んぼのあぜ道に河川敷、近くの山、そんなあらゆる場所がトライアルのセクションになります。そしてツーリングに出掛ければ、普通のバイクでは考えられない様な所を平然と走ってしまいます。それは長年バイクに乗ってきた僕にとっても未知の世界。僕のバイクのお師匠さんの言葉を借りれば、

「トライアルはアドベンチャー」

なのです。

 

machine spec

車名:TLR200 (型式MD09 1984年式)  長×幅×高:2080×825×1105mm

最低地上高:300mm  シート高:780  軸距離:1315mm  重量:90kg(乾燥)

キャスター:26度30分  トレール:86mm

フレーム:スチール製ダイヤモンド

始動方法:プライマリーキック

エンジン:空冷4サイクルOHC単気筒194cc

ボア×ストローク:65.5×57.8mm  圧縮比:8.2

最高出力:12.0ps/6500rpm  最大トルク:1.6kg-m/4000rpm

キャブレター:ケイヒンPW22  点火方式:CDI

タンク容量:6.5L  変速機:6速リターン

ブレーキ形式:機械式リーディングトレーリング(前後共)

タイヤサイズ:(F)2.75-21  (R)4.00-18

 

modify

バッテリーレス化  ワイドステップ化  順次小変更の予定

 

全般

軽い。小さい。両足ベッタリ。女性でも楽々?

 

メリット

部品の入手が容易で納期も早い

公道を走る為の保安部品が確実に機能する

ガソリンタンクが大きくて航続距離が長い

燃費が良い

排気音が静か

 

デメリット

重い

デカイ

古い

故にトライアル性能は低い

ブレーキが効かない

電装が6V

社外パーツはほとんど無い

 

前のマシンがイタリア製のコンペマシンだっただけに、TLRはまるでツーリングバイクの様。これなら通勤から足代わりの街乗り、ある程度のツーリングまでこなせそう。FANTICはいきなり乗って自分自身かなりビビッたので誰にでも勧められたものじゃありませんでしたが、TLRならそれこそ女性でも勧められそうなくらいの取っ付きやすさがあります。その半面、トライアルの突き詰めた性能は期待できません。

良い点は、国産車なので部品が何処でも簡単にすぐに手に入る事。トライアルバイクでトライアル走行をすれば、消耗もするし転倒で壊れもします。部品の供給状況は快適なバイクライフを送る上でとても重要です。

公道を走る為の機器が正常に確実に機能するというのも重要。コンペマシンの逆輸入車等の場合、元々保安部品を機能させる事など考えて造られていないので、きちんと機能しない場合があります。公道の走行頻度が高い場合は安全に走行する為には重要な要素になります。

ガソリンタンクはカタログ値で6.5リットル。容量の少ない本格的オフロードバイクと比べても更に少ない容量ですが、トライアルバイクとしては驚異的な大容量。燃費の良い4stエンジンとあいまってかなりの距離を走る事ができます(スプロケットの変更や走行場所によってかなり変りますが150km程度は走ると思います)。コース走行ではなく、ツーリングトライアルやトレッキング的な使い方をする場合、山まで行く間にガス欠、などという心配が無くなります。4stエンジンなのでガソリンの心配だけすればい良いというのも楽(2stエンジンは混合ガソリン、もしくはエンジンオイルが必要になる為)。

排気音もまた有り得ない程静かです。まるでカブみたい。朝の住宅地でも気兼ねしなくて良いほど。排気音に関しては人それぞれ好みが有るでしょうが、住宅地で始動に気を使わなくて良いとか、山まで行く途中の静かな山村で威圧的な音を出さなくても良いというのは、僕にとってはメリットです。困るのは静か過ぎて熊よけにならないくらい。

逆に悪い点は、重くて車体が大柄だという事と、古いので各部の性能がかなり低いのでトライアルマシンとしての性能は期待できないという事。上手い人が乗ればかなりの事は出来ると思いますが、同じ人がもっと新しいマシンに乗ればそれ以上の事が出来るはずです。特にマジで効かないブレーキは問題。サスの性能も相当悪いです。それを補う為の社外パーツも今ではほとんど有りません。

電装が6Vなので、バッテリーも電球も6Vです。ホームセンターやカー用品店では売ってませんが、手に入らない訳じゃないのでそれ程気に病む事でもないかも。

 

街乗り

軽い。小さい。取り回しは最高。

乗るだけなら扱いやすくて楽です。まるでカブの様。最初から公道を走る事を考えられて作られているので、全く問題ありません。ただ、スプロケットの交換等でトライアル用の減速比にした場合、最高速が60km/h程度になりかねません。速度もカブ並みになるので幹線道路を快適に移動するのは諦めた方が良いです。また、タンデムシートも無いしキャリアも無いので荷物は積めません。ブレーキの効きが甘いので注意が必要。

最近は人とは違う古いバイクを求めて若いライダーがTLRのカスタム車に乗ったりするみたいなので、街乗り用のセッティングをすれば足に使えなくも無いとは思います。でも街乗りオンリーなら何もこんな不便なバイクを選ぶ必要も無いと思うのですが。テクニック次第では、細い路地や、土手や階段、歩道橋&地下道、渋滞している車の上を走れるので街乗り最高かも?

 

高速走行

法的には高速道路は問題なく走れます。僕的には高速道路は走れません。路側帯なら走れるかもしれませんが。スピードが出ない訳じゃないです。ファイナルを変えればそれなりに速度は出せますが、今度はトライアル走行に支障が出ます。速く走るのが目的ならば、トライアルマシンを選ぶべきではありません。

 

ワインディング

タイトで荒れたコーナーになればなるほど有利になると思います。それが楽しいかどうかは別として。

 

ダート

状況が悪くなるほど本領を発揮するでしょう。本領を発揮させられるかは分かりませんが。僕は発揮させられないので良く分かりません。トライアルの真価が発揮されるのは、普通のオフロードバイクでは走行困難な状況になってからです。

 

タンデム

出来ません。法的に出来ないという以前に、2人乗ったら壊れそう。でもFANTICに比べれば何とかなりそうだし、TL125ではタンデム出来るのでパーツの流用で可能だと思いますが、トライアルには邪魔になります。

 

総合評価

各部品は他車種の流用品が多くてコストダウンしているようで安っぽい印象を受けますが、細かい所を見ると軽量化の努力や工夫が見られるし、これだけの物を30万円を切る価格(当時)で作ったのはホンダとしてもかなり頑張った結果じゃないかと思います。今現在トライアルの入門バイクと言えばスコルパのTY−S125Fが主流になると思うのですが、ホンダは正にコレを二十数年前にやっていたという事です。工夫と努力で安く大量に作ってくれたから、ちょっとトライアルやってみたい、と思う僕でも手に入れることが出来ました。

前のバイクがあまりに過激なマシンだったせいか、TLRに乗ると何でもこなせそうな気がしてきます。国産車で、しかも公道を走る事が出来る一般的な車両ですから、普通に乗る分には何の支障も有りません。ちょっとした足代わりにもなるし、気合を入れればある程度のツーリングもこなせるし(ロードバイクやオフロードバイクの仲間と行動を共にするのはやめた方が良い)、本格的にトライアルをするならやめた方が良いと思いますが、ちょっとトライアルってどんなものか気になる、まずは乗ってみたいという人には良いと思います。

でも、トライアルの経験者は、ほとんどの人が「トライアルをやるなら、なるべく新しいマシンを手に入れた方が良い。」と言います。昔と今では基本設計が違って扱いやすさが全然違う事と、古いマシンを本来の性能をきちんと発揮出来るように整備すると意外にお金が掛かるからです。それは僕もその通りだと思いますし、誰かに聞かれたら僕も同様の意見を言うと思います。ですが、では新しいマシンを手に入れる事が出来るのかと言えば出来ません。所帯持ちで住宅ローンも抱えた状態では、初級者向けのモデルでさえ購入するのはとても難しいです。普通のバイクが買えるなら、その費用でトライアルバイクも買えるはずです。でも、僕自身が買えないマシンの事をアレコレ言っても始まらないし、競技レベルを目指すのではなく、林道ツーリングの延長としてのトレッキング、またオフロードバイクのスキルアップの為の練習用と考えるなら、それほど高いトライアル性能は必要ないので古いトライアルマシンでも用は足りるのではないか、という事です。正確に正直に言うと「TLRが良い」のではなく、「TLRしか乗れなかった」という事ですが、でもまぁ乗れるだけ幸せなんじゃないの、という事で。

ただ、20年以上経っているバイクですから、買ったそのままの状態で楽しめるとは到底思えません。トライアルに力を入れているショップが販売している車両ならともかく、一般的なバイク屋さんに置いてある中古車も信用しない方が良いと思います。ただ乗るだけ、走るだけなら構いませんが、トライアル的な事を行おうとすると、繊細な操作に対してきちんとマシンが反応してくれなければなりません。キャブレターはもちろん、サスペンションやステアリングもオーバーホールするくらいの整備は必須だと思いますが、一般的なバイク屋さんの納車整備でそこまでやっているとは思えないからです。オークションで手に入れる場合も、いくら「好調。現状で問題無し。」と言っても購入後一通りの整備をする覚悟が必要で、それをショップに依頼すると新しいバイクが買えるくらいの費用が掛かった、なんて事も充分考えられるので、整備に自信が無い場合は慎重に検討する必要があります。ただ、一度きちんと整備すれば、あとは余程大破させない限り、他のカテゴリーのバイクよりもお金は掛からないと思います。

 

各部詳細

左サイド。

一応一世を風靡したトライアルバイクですが、今ではレトロな雰囲気というか

最近のマシンと比べるとあんまりトライアルっぽくない外観。

右サイド。

まぁでも新車価格が289000円ですからね。

性能うんぬんよりも、よくもまぁそんな低価格で

これだけのバイクが作れるものだと感心してしまいます。

フロントビュー。

それでも、まかりなりにもトライアルバイク。驚異的な細さ。

ほとんどライトカウルの幅で収まってます。

リヤビュー。

FANTICと比べると驚きも半減ですが、それでも細い。

ナンバープレートがやけの巨大に感じられます。

これに身長177cmの僕が乗るとかなりの違和感。

大柄なランプ類が野暮ったいので、小型軽量化したいところ。

リヤ周りにサブフレームは無くて、フェンダー自体の強度で保持しているようです。

エンジン部分。

空冷4stOHC2バルブのエンジン。

いろいろな車種に流用されているだけあって、信頼性と耐久性には定評が有るようです。

始動はキックのみでオートデコンプ装備。

キャブレターはさすがに負圧式ではなくスロットルワイヤーでダイレクトに操作するもの。

爆発的なパワー感は有りませんが、FANTICよりもフロントが上げやすいので、

扱いやすくてかなりトラクションが掛かる感じですが、サスペンションが貧弱。

フロント周り。

サスペンションは硬くて動きが悪い感じ。

ブレーキは、フルタイム ナチュラルABS。

効かないとは聞いてましたが、ほんと死ぬほど効きません。

でも、ブレーキのアームをアルミにしたり穴空け加工したり、

安い割には結構頑張ってます。

TLM220のフロント周り1式と交換してしまうのがカスタマイズの定番ですが、

ASSY交換となると費用もバカになりません。

まぁ、ブレーキ効かずに車に突っ込む事を思えば安いかもしれませんが。

リヤ周り。

リヤも効かないドラムブレーキ。思い切り踏んでもロックしません。

リヤのアームも穴空けしたり、ロッド調整のパーツが中空になってたり、

ホンダってかなり本気で造ってたんじゃないの?

アームを長くすると効きが良くなるかも。

リヤは2本サス。性能は期待しない方が良いです。

TLR用の社外品も見当たらないので、カスタマイズは難しいところ。

サイレンサーはかなり凝った造りで、

エンジン右側をエキパイが通り、リヤタイヤ前のチャンバーに入り、

左リヤサスとリヤタイヤの僅かな隙間を縫って後部サイレンサーに繋がります。

相当凝ってますが、相当重いです。

ですが、このショップのオリジナルパーツにTLR用アルミサイレンサーが有ります(受注生産)。

そのうち買いたいので、僕が買うまでに生産中止にならないように誰か時々買ってください。

ハンドル周り。

オフロードバイクっぽい感じの、トライアルとしてはかなり大きめのタンク。

タンクキャップはカギがありません。

メーターもXLRやCRM等ホンダのオフロードバイクでよく見るタイプ。

メーターASSYは重たいので、代わりにサイクルメーターを付けて様子を見ているところ。

ライトカウルはビス1個で外せます。

新車を買うと車積工具と一緒に、メーターやライト等のカプラーを外した後につけるダミーのカプラーと、

メーターケーブルギヤのキャップが付いてくる模様。

かなりコンペも意識したバイクだったようです。

純正のバックミラーは有り得ない程大きいので、社外品に交換してあります。

少し高めのアルミハンドルバーに交換したいところです。

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