SRXのデザインは優れている。それは雑誌でもよく言われている。
でも、格好だけのマシンじゃない。
もちろん機能だけのマシンじゃない。
これは日本を代表するSSS(スーパースポーツシングル)だ。と、個人的に思う。
今現在生産されている本格的なシングルスポーツバイクは国内外共に壊滅状態で、数えるほどしかありません。
近代的なスポーツ指向のビッグシングルを打ち出したSRXは貴重な存在でしたが、
それも生産中止になってしまいました。
「売れなかった」といえばそれまでですが、このカテゴリーの楽しさは他では味わえないものがあります。
リッターバイクが悪いとは言わないし、レトロなスタイルやフィーリングを楽しむシングルも悪くはありませんが、
スポーツシングルが選択できる状況ではなくなってしまったのは本当に残念です。
SRXを評価する前に、1つ断っておかなければならない事があります。
僕は、今現在コーナーリングマシンとして絶賛されているバイクや、
スタンダードの指標とされるバイクには触ったことすらありません。
つまり、現代の評価基準を持たない僕の評価は、老いぼれ爺さんが「ワシが若ぇ頃はなぁ・・」と、
時代錯誤甚だしい事を口走ってるのと何ら変わりません。
しかも元々好きな車種の評価なんですから、甘くなって当然。
それを理解して頂いた上で、話半分に軽く読み流して下さい。
Machine Spec
SRX−6 1987年式(2型)
型式:1JK エンジン形式:空冷4サイクルOHC4バルブ 排気量:608cc
ボア×ストローク:96.0×84.0 圧縮比:8.5 潤滑方式:ドライサンプ
最大出力:42ps/6500rpm 最大トルク:4.9kg/5500rpm
始動方式:キック 点火方式:CDI 変速機:5速リターン
1次減速比:2.387(74/31)
変速歯数比:1速2.307 2速1.588 3速1.200 4速0.954 5速0.807
2次減速比:2.466(37/15) ドライブチェーン:サイズ520 104リンク
長×幅×高さ:2085×705×1055 シート高:760 ホイールベース:1385
最低地上高:145 キャスター:26°00 トレール:108 フロントフォーク径:φ36
フロントホイールトラベル:140 ハンドル切れ角:36° フレーム形状:ダブルクレードル
乾燥重量:149kg タンク容量:15リットル
タイヤサイズ:(F)100/90−17 (R)120/80−18
燃費(実測):街乗り25km/L 高速*km/L
Modify
エンジン関係
アナログ油温計
サスペンション
フロントフォークスプリングイニシャルアジャスター
車体
アルミ小型ウインカー
SRX−6の満足度
外観 ★★★★★ このデザインなら全てが許される。
エンジン ★★★★☆ 年式相応か。車体とのバランス的にも丁度良い。
車体 ★★★☆☆ サスペンションが貧弱。
走行性能 ★★★★★ サスの不満を差し引いても楽しい。データでは表せない楽しさ。
トータル ★★★★★ 秀逸なデザインと侮れない走行性能。一家に一台常備すべし。
全般
心臓部であるオフロードバイクから流用された空冷SOHC4バルブエンジンはオーソドックスではありますが、
それを抱える車体は軽量で超コンパクト。
デザインも良く、細部の仕上げも良いです。
本当にバイクが好きな人が、本当にバイクが好きな人の為に造ったという感じが伝わってきます。
フルモデルチェンジした90年式(4型)以降はセルフスターターとなりましたが、
それ以前の年式はキック始動のみとなります。
少々力が要るものですが、コツさえつかめば極端に困難なものではないでしょう。
肝心の走行性能はというと、『楽しい』。こんな月並みな表現しか出来ないのがうらめしい程楽しいです。
実際に乗るまで僕はまだまだSRXを過小評価していました。
雑誌等では、フレームも足周りも貧弱という評価だったし、600ccとはいえ所詮はシングル。
非力なのは目に見えています。
が、実際に走ったらどうだ! これは正しくスーパースポーツシングルじゃないか!
エンジンはさすがにスムーズとは言えないものの、アイドリング付近から上までストレス無く吹け上がり、
非常に扱いやすい。
もちろんリッターバイクのように頭が真っ白になるような加速はしませんが、
必要にして充分で、ライダーを置き去りにする事がありません。
カチッとした剛性感を好む方には頼りなく感じるでしょうが、サスペンションの性能が低い感じは否めないものの、
フレームに関しては言われるほど弱さを感じません。
SRXはサーキットで走る事を想定してはいません。これはこれで良いんだと思わせてくれます。
眺めても、磨いても、イジっても、もちろん走っても楽しめるマシン。
たかが42馬力?と、鼻で笑う人こそ実際に乗ってみて欲しい。
ビッグシングルのトルクが軽量な車体を蹴りだすフィールは、カタログデータでは絶対に分かりません。
既にカタログ落ちしたマシンですが、まだ入手不可能という訳ではありません。
たかだか数万円で手に入るバイクが、こんなに楽しくても良いものなのか!?
気になる人はぜひ試乗して、そのフィーリングを実感して下さい。
その際はできるだけ高年式車で完調な物に乗ること。
外見は同じでも高年式になる程細部が煮詰められ、それは全体的な性能と信頼性を上げているからです。
また、シングルはシンプルゆえに不調が顕著に表れる為、調子が悪いマシンでは走りを楽しむ事が出来ません。
ですから高年式で完調な物ほど、より楽しさを実感出来るはずです。
この美しくて楽しいシングルマシン、ぜひ一人でも多くの方に楽しんで頂きたいと願ってやみません。
街乗り
快適。
軽量でコンパクトでスリムな車体は、街乗りに最適。
ハンドル切れ角も大きく、足付き性も良いので全く不安がありません。
エンジンはかなりフレキシブルで低回転から充分使えるため、発進時に神経を使うこともありません。
また、低速域でも急かされることなく、車の後ろをトコトコついて走るのも苦痛じゃありません。
もちろんシングルとはいえビッグバイク、一度アクセルを捻ればグイグイ加速します。
難点は美し過ぎて、そこら辺の自転車置場に停めておくのがためらわれる事でしょうか。
また、SRXで走っているとやけに車間距離を詰めてくるドライバーと遭遇しますが、
それは恐らくSRXの美しさに見とれてもっと間近で見たいが為に思わず車間を詰めてしまうものと思われます。
そんなドライバーに遭遇した時は、無闇に道を譲ったりブッちぎったりせずに
ゆっくり前を走って心ゆくまでSRXの造形美を堪能させてあげましょう。
なお、街乗り比率が高いなら、もう少しハンドルバーを高くした方がリラックスできます。
高速走行
高速巡航は苦痛ですが、単気筒の割にはよく走ります。
軽量でコンパクトな車体は低速域での軽快さと引き換えに、高速域での不安定さが助長されます。
100km/hまでは振動も体に受ける走行風も少なく、平穏そのものです。
120km/h時のエンジン回転数は4500回転で、多少風当たりが強いですが
この辺りまでなら巡航するのもそれ程苦痛ではありません。
それ以上で巡航しようとするとさすがに振動もひどく、また、カウルを持たないので風防効果も全く無くて苦痛。
ただ、回せばメーターに表示してある程度の速度は出ますので、一時的な追い越し加速等で困る事はありません。
例えシングルエンジンでも、チューンしたものはとてつもない速度で巡航するという話ですが、
ノーマル状態では合法的な速度域が楽しいようで。
高速道路を高速巡航するのが目的なら、他にいくらでも向いたマシンがあります。
ワインディング
SRXが本来走るべき場所。
街乗りでは少々窮屈な姿勢も、高速では少々不安定な車体も、ワインディングではピタッと決まります。
全てはコーナーリングのために。トラクションをかけてコーナーを抜けると至福の喜びを与えてくれます。
前17、後18インチの、今時の250ccクラスよりも細いタイヤは、特別意識しなくても良く曲がり、
素直なコーナーリングをします。
軽くてスリムなシングルですから当然マルチに比べればとても軽快なんですが、
スポーツシングルの中にあってはかなり安定指向のようで、ライダーに不安を与えるような軽快さではなく、
適度な安定性を兼ね備えているので上級者でなくてもコーナーリングが楽しめるはず。
シングルエンジンではありますが、下から上まで柔軟に使え、高回転もきちんと使えます。
ビッグシングルは回すと振動が酷いんですが、SRXのエンジンは高回転域をキープした走りも可能。
しかし元気良く走ろうとすると使える回転域は狭く、シングルエンジンを最大限に生かすには
5速のミッションでは完全に能力不足。
それでもパワーに頼る走りじゃなく、タイヤのグリップに負う走りでもなく、
軽量で軽快な車体を力まず極力ロスさせずに走らせる行為は、派手さは無くても愉快痛快。
思わずヘルメットのなかでニヤけて、マニアで変態なオヤジと思われること請け合いです。
サスペンションは若干貧弱な印象を受けます。
追従性もダンピングも悪く、高速で路面のうねりを拾うと収集がつきません。
既に16年経過する純正サスでは良い評価は期待できませんが、元々評判は悪かったのでこんなものでしょうか。
フレームも、僕が峠を一生懸命走る程度のレベルでは問題ありません。
SRXが販売された当時のインプレでは軒並みフレームの弱さを指摘していますが、
当時はレーサーレプリカブームの真っ只中にあり、全ての基準がサーキットに有ったのが要因じゃないでしょうか。
好みの問題でもありますが、高剛性のレプリカのフレームの様なガッシリ感ではなく、
フレームをしならせる事で負荷を吸収している様で、峠レベルでは特別不快なものではありません。
上手い人が、きちんとセットアップされたシングルマシンに乗れば、きっと驚異的なパフォーマンスを発揮することでしょう。
でも、速いだけじゃない。
ビッグシングルのトルクフィールでコーナーを駆け抜けるこの上ない楽しさこそが、最も重要な要素です。
ダート
エンジンはオフ車からの流用とはいえ、ダートを走らせるのはためらいが<当たり前だっつーの
ただ、前傾のポジションは頂けませんが、小さくて軽い車体は不安定なダートには有利。
完全なダートではサスペンションの能力が完全に不足しますが、
良く有る砂が浮いた荒れた舗装路などでは、軽くて小さな車体のお陰で安心して走れます。
綺麗なバイクなのであまりやりたくありませんが、ブレーキターンやアクセルターン程度は軽くこなせる憎いヤツ。
足付きも良いので、ツーリングの途中にどうしてもダートを走らなければいけない状況でも救われるはず。
僕は美しいSRXが汚れるのは我慢ならないから未舗装路は走りませんけどね。
タンデム
シートは細身で前後長も短く、また、グラブバーも無いので長時間タンデムを快適にこなすのは難しそう。
また、その細身ゆえに積載性も劣ります。
ただ、その細身を逆に利用し、子供を乗せるとなかなか良い塩梅。
子供を味方につけてしまえば、奥さんに「そんなバイク捨てなさいよ」と言われる危険性も低減されます。
総合評価
シングルスポーツとはいえ過度に性能を突き詰めたバイクではないので、普段のちょい乗りからツーリング、
ワインディングを一生懸命走ることまで幅広く柔軟に使えて、どんな時でも楽しませてくれます。
気に入らない部分は豊富な社外パーツで容易にポテンシャルアップが可能。
DR同様、高速巡航は苦痛でしかありませんが、一般的な常識の速度範囲ならばこれほど楽しめるバイクもありません。
法定速度以下から全開走行まで、隅から隅までむしゃぶり尽くす様に楽しめます。
また、シンプルなシングルゆえにメンテナンスも楽な上、ランニングコストも極めて安上がりに済みます。
経済的でありながら日常範囲で十二分に楽しめ、しかも所有欲を満たしてくれるシングルスポーツSRX。
初心者からシングルマニアまで、こればぜひ一度試してみるだけの価値が有るマシンです。
断言しましょう。
悩む前に買え!悩む前に乗れ!
SRXのツボ
SR程ではないですが、SRXのカスタムマシンもバイク雑誌に紹介される事があります。
しかし、それらのお手本カスタムを全て施すには法外な金と手間が掛かります。
しかも闇雲なモディファイはバランスを崩しかねません。
ノーマルでもまとまりの良いSRX、そのままでもかなりのポテンシャルを秘めているので、
ユーザーの中では大げさなカスタムを希望していない人も居るでしょう。
ノーマルで走りこんでみて僕なりに考えた結果、あえて手を加えるとするなら
フロントブレーキのマスターシリンダにするべきと感じました。
SRXにはシングルディスクではあるものの、レプリカ並の対向4ポッドキャリパーがついています。
しかし実際はかなり穏やかなフィーリングで、カチッとした効き具合ではありません。
恐らく性質上の問題で、あえて曖昧なフィーリングにすることで
神経質な操作しなくても良い様に配慮したものと思われますが、
軽量で軽快なシングルマシンの性能を充分に引き出すには、ブレーキ性能が肝です。
絶対的な制動能力もさることながら、コントロール性が最も重要です。
キャリパーは元々それなりの物が奢られていますので、キャリパーを高性能な物に交換しても
劇的な変化は多分望めません。
そこで、マスターシリンダーを交換することで、純正キャリパーの本来の性能を引き出してやるのが
ベストという考えです。
もちろん、SRXは古いモデルなので、キャリパー等は相応の手入れをしての話しですが。
モディファイというと、まずサイレンサー、次にキャブレターというのが一般的なケースだと思いますが、
僕が手持ちの社外サイレンサーを付けた時は、逆にフィールが悪化しました。
600は特に吸排気でかなり制約を受けているようなので、ボルトオンで高性能化する社外品が沢山有るでしょうが、
増加したパワーはより一層ブレーキの貧弱さを助長させます。
ブレーキ性能は、向上したからといってデメリットは有りません。
SRXの素性を生かすには、ブレーキがキモだと考えます。