DR800SのエンジンOH 2
03年3月〜
いざ、核心のシリンダーヘッド
シリンダーヘッド部
分解と点検
トラブルの根源であるシリンダーヘッド部分。ヘッドはクランクケースから出ているスタッドボルトによって固定されています。ナットを緩めてヘッドを外し、バルブスプリングコンプレッサーを用いてバルブ部分を分解。その際、どのバルブとスプリングが何処のポートから外した物かを分かるようにしておきます。寸法精度は1/100mm台、またバルブとバルブシートの当たり面精度も要求されるものですから、外した場所と同じ所に再び組むようにした方が無難。バルブを外したら掃除。シコシコシコシコ・・・このヘッドに溜まったカーボンの掃除と、バルブの擦り合わせ作業で全体の作業の9割が終わるのではないかと思うくらい面倒臭い作業。おおよそ綺麗になったところで、各部の寸法測定。ヘッド関係で消耗する部分は、バルブ、バルブガイド、バルブスプリングのヘタり、カムシャフト、カムシャフトの受け。それにカムチェーンの伸び。それらを測定、点検してみましょう。
バルブの点検
バルブステム標準値(排気側) 6.945〜6.960mm
バルブステム測定値(排気側1) 6.952
バルブステム測定値(排気側2) 6.949
バルブステム標準値(吸気側) 6.960〜6.975
バルブステム測定値(吸気側1) 6.950
バルブステム測定値(吸気側2) 6.950
おそらく前回のOH時にバルブ関係は交換していないと思われます。ビッグシングルを高回転までスムーズに回すには、バルブ周りもリフレッシュさせたいところです。しかし、バルブを交換するとなると当然バルブが納まるべきバルブステムガイドも交換する必要があります。その上、バルブ&ガイド交換となるとバルブシート(バルブの当たり面)の切削加工が必要になり、それは特殊工具が必要で素人では不可能。一体いくら費用が掛かるのか見当がつきません。よし、今回も「まぁ良いか」作戦です。完璧に仕上げたいのは山々です。しかし無い袖は振れぬ。無い金は出せぬ。きっとこういうわずかな精度不良が、組み上げた時のフィーリングに大きな影響を与えるんでしょうね。ああぁ、貧乏のバカッバカッ!
バルブスプリングの点検
ついでにバルブスプリングの長さを測ります。スプリングの自由長を測り、スプリングがヘタっていないか判断します。長期間乗らずに放置した車両では、長時間バルブが押されたままの状態になり、一部のスプリングだけがヘタってしまうケースもあるそうです。念の為に測定しておきましょう。ちなみにDRのサービスマニュアルには、一定の荷重を掛けた時のスプリングの長さを測るよう指示があります。単に自由長を測るよりは、その方がより実用的な気がしますが、面倒なのでやめ。バルブスプリングはダブルになっているので、1つのバルブに付き2つのスプリングが有ります。スプリングには向きがあるので、組み立てる際は気をつけましょう。
バルブスプリング使用限界値(アウター) 40.1mm
バルブスプリング測定値(アウター排気側1) 41.0
バルブスプリング測定値(アウター排気側2) 41.0
バルブスプリング測定値(アウター吸気側3) 41.0
バルブスプリング測定値(アウター吸気側4) 41.0
バルブスプリング使用限界値(インナー) 34.4
バルブスプリング測定値(インナー排気側1) 34.9
バルブスプリング測定値(インナー排気側2) 34.8
バルブスプリング測定値(インナー吸気側3) 34.9
バルブスプリング測定値(インナー吸気側4) 34.8
使用限界値までは、まだ幾分余裕があります。インナースプリングの限界値まで0.5〜0.6mmくらいですが、これってまだ余裕があると見て良いのでしょうか。標準値が分からないのでどの程度ヘタっているのかが分かりません。余裕を見て交換した方が良いのでしょうか。アウタースプリングはまだ余裕があるみたいですが、パーツリストを見るとバルブはインナーとアウターセットでしか部品として出ないようですから、交換するとなると全てのスプリングを交換することになります。財布と相談しながら今後検討しましょう。
カムシャフトの点検
次はカムシャフトの点検。カムシャフトの軸受部分を測定します。軸受部分を見ると綺麗で酷い傷み方をしてるようには思えないし、カムシャフト等の交換となると多額の費用が掛かるので余程の事が無い限りは交換するつもりはありませんが、一応磨耗具合を実際に測定してみます。なお、カムシャフトの受け側であるシリンダーヘッドとヘッドカバーのジャーナル部分の磨耗具合は、そのままでは測定出来ません。カムシャフトを収めて軸受部分にプラスチゲージという粘土の様な物置いて規定値で締め付け、そのゲージのつぶれ具合でジャーナル部分のクリアランスを判断するのですが、プラスチゲージも無いし、面倒なのでやりません。多分大丈夫。綺麗だから大丈夫。大丈夫じゃなくても交換する金無いから大丈夫。カムシャフトは一応規定値内に入ってますが、やはりカムスプロケットで駆動される左側の方が若干磨耗しているようです。
カムシャフト標準値(左及び中央部) 24.959〜24.980mm
カムシャフト測定値(左) 24.960
カムシャフト測定値(中央) 24.968
カムシャフト標準値(右) 19.959〜19.980
カムシャフト測定値(右) 19.970
カムチェーンの点検
カムチェーンはドライブチェーン等とは違い、エンジンオイルに浸かりながら動いているし、バルブを駆動するだけですからドライブチェーンの様な高負荷を担う訳ではないので消耗の度合いは少ないですが、それでも長年乗ってるうちに徐々に伸びます。極端に伸びるとトラブルの元になるので交換が必要。特に熱的に苦しいエンジンは熱の影響で伸びやすいという話も聞きました。そこでカムチェーンの点検。チェーンの点検は、一定数のチェーンのコマの長さを測定し、どれ位伸びているかを判断します。マニュアルによると、21ピン間の長さを測定し、判断するようです。
カムチェーン使用限界長さ(21ピン間) 129mm
カムチェーン長さ測定値 127mm
さて、限界値まであと2mm。これまた良いんでしょうか?悪いんでしょうか?標準値というか、新品の状態の長さが書いてないので、この「あと2mm」がどの程度の伸びなのかが判断出来ません。SRXの数値を参考にしようと思ったら、SRXのマニュアルにはカムチェーンの点検項目が載っていなくて、数値も分かりません。カムスプロケットは磨耗したら交換しましょうと書いてありますが、カムチェーンはどうでも良いんでしょうか。分かりません。切れたりする事は無いでしょうが、せっかく分解したのですから念の為に交換する予定。ちなみにDRのエンジン、通常はギヤで駆動するバランサーをチェーンで駆動しています。バランサーチェーンを交換しようとするとエンジンを分解せねばならず、と言う事はエンジンを降ろさなければならないので、この際バランサーチェーンも交換しておくのが無難ですね。
バルブの擦り合わせ
バルブは良しとしたところで、バルブの擦り合わせ作業をします。バルブとバルブシートの荒れた接触面をコンパウンドを使って磨くことで密着させ、圧縮漏れの原因となる隙間を無くします。バルブの当たり面に専用のコンパウンドを少量塗布し、バルブタコを呼ばれる吸盤にくっつけて、バルブをパコパコと動かす。擦り合わせと言うとバルブを回して作業すると思いがちなんですが、聞くところによるとバルブを回すのではなく、バルブシートに叩きつける様に前後動させるそうです。ヤマハのサービスマニュアル(SRX)には、ご丁寧にバルブ擦り合わせのやり方が載っているんですが、それによると「回しながら叩くように」と書いてあります。確かに写真を見ると回しているような手つきに見えます。叩くのか?回すのか?う〜ん、よく分かりません。分かりませんが、恐らくバルブとバルブシートが綺麗に当たれば良いんじゃないかと言うことで、バルブを回しながら叩くようにパコパコと適当にやってみます。バルブ当たり面にコンパウンドを塗布して、バルブステムにオイルを塗布し、パコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコパコ・・・・うきーっ!やってらんねー。 4バルブエンジンだから、それを×4回。シングルエンジンで本当に良かった。コンパウンドは固い金属を磨くだけあって、かなりザラついた物です。バルブステム部分に付着させないように気を付けながらパコパコ。
擦り合わせまで済ませたシリンダーヘッドとバルブ。
バルブの荷札はどの位置のバルブか分かるように付けているものです。
ヘッドもバルブも超デカイ。
吸気バルブなんてビックリするほど大きくて重い。
DRのヘッドはツインプラグです。
通常はセンターにあるスパークプラグが、両端に2ヶ所あるのが分かるでしょうか。
これだけ大きな燃焼室を完全燃焼させるには、ツインプラグは必須とも思えます。
SRXのカムシャフトにはシャフト内部をオイルラインが通っていて、
そこを通ったオイルがカムシャフト各部を潤滑する仕組みでした。
DRの場合はカム山部分にオイルチャンバーが設けられており、
カムがオイルに浸かった状態で動いているようです。
同じ単気筒でもモノによって各部に独自の工夫がされていて面白いです。
さて、とりあえずヘッド周りを綺麗にしたところで、次はシリンダー&ピストンです。
φ105.5mmのピストンは凄いぞ。